概要
自然数は加法に関して可換「半群」(足し算はできるが引き算はできない)になります。 a + b = 0 となるような自然数の組 a, b は a = b = 0 以外に存在しません。
整数は、自然数に対して負の数の概念を付け加ええることで、 加法に関して可換「群」となるようにしたものです。 これは、自然数 a, b から“ a − b という形で表される数”を作ることで実現できます。
“ a − b という形で表される数”というものをきちんと説明するためには、 まず、同値関係や商集合というものについて説明する必要があります。
同値
同値関係
集合 A からそれ自身への「対応」
(
A×A, f
)
(または、単にそのグラフ f)を A の上の関係(relation)とも呼びます。
A の元 x, y が
(x, y) ∈ f
のとき、
「x, y は f により関係付けられる」といい、
x
y
と表します。
(f が自明な場合には、単に x ∼ y 表す。)~ f
ある関係 f が以下の条件を満たすとき、 同値関係(equivalence relation)といい、 2つの元 x, y が同値関係を持っているとき、 x, y は互いに同値(equivalent)であるといいます。
-
x ∼ x(反射律)
-
x ∼ y ⇔ y ∼ x(対称律)
-
x ∼ y ∧ y ∼ z ⇔ x ∼ z(推移律)
同値というのは、文字通り、「互いに同じ値であるとみなせる」ということです。 「集合として互いに等しい」、すなわち、 x = y という関係も同値関係の一種で、 相等関係(equality relation)と呼びます。
例えば、「2で割ったあまりが等しい」という関係は同値関係になります。
逆に、順序関係
などは同値関係にはなりません。 順序関係は、反射律および推移律は満たしますが、対称律を満たしていません。
同値類
互いに同値関係にある元同士は、全く同じ物であるとみなすことができます。 このとき、全く同じ物とみなせる元同士を代表するような物を1つ選ぶことを考えます。
同値関係 ( A × A, f ) が与えられたとき、集合 A のある元 x に対して、 A の部分集合 f(x) を x の同値類(equivalent class)または代表元と呼びます。 例えば、 元 y, z が x と互いに同値であるとき、 = {x, y, z} という集合によって、 同値な3つの元 x, y, z を代表させようということです。
具体例を1つ挙げると、0から8までの自然数に対して、 「3で割ったあまりが等しいとき互いに同値」という同値関係を導入したとします。
このとき、 0 ∼ 3 ∼ 6 、 1 ∼ 4 ∼ 7 、 2 ∼ 5 ∼ 8 という同値関係が成り立ち、 = { 0, 3, 6 } 、 = { 1, 4, 7 } 、 = { 2, 5, 8 } という3つの同値類に分類されることになります。
商集合
集合 A と、A 上の同値関係 f が与えられたとき、 A 上の f による同値類の集合を、 A の f による商集合(quotient set)と呼び、A / f と表します。 すなわち、商集合とは、
と定義される集合です。
例えば、先ほどの例であげた集合および同値関係
を用いて商集合を作ると、
となります。 ただし、 = { 0, 3, 6 } 、 = { 1, 4, 7 } 、 = { 2, 5, 8 } です。
整数の定義
整数(integer number)は以下のような手順で定義します。
-
自然数の対 (a, b) ∈ ω×ω を用意する。
-
2つの対 m = (a, b), n = (c, d) に対して、「 a + d = b + c のとき互いに同値」という同値関係を定める。
-
この同値関係を使って商集合 Z を作る。
-
この Z を整数と呼ぶ。
すなわち、
となります。
このとき、自然数の対 (a, b) を a − b とも書きます。 同値関係 f は、要するに「自然数の対の差が等しければ同値」ということになります。 具体例を挙げると、 0 − 3 と 1 − 4 と 2 − 5 は互いに同値ということで、 直感的な整数のイメージ通りのものになっています。
同値類 f( a − 0 ) は自然数 a と1対1に対応するので、 これを a と同一視することができ、 自然数は整数の部分集合であるとみなすことができます。 そこで、同値類 f( a − 0 ) を単に自然数 a で表します。 また、同値類 f( 0 − a ) を −a と表します。 −a は a の加法に関する逆元になります。 すなわち、 a + ( −a ) = 0 が成り立ちます。
整数の間の関係・演算
整数の順序
整数の順序関係は
で定義します。 この順序関係は、自然数の順序関係の自然な拡張になっていて、以下の命題が成り立ちます。
-
m ≦ n ∧ n ≦ m ⇒ m = n
-
l ≦ m ∧ m ≦ n ⇒ l ≦ n
-
任意の整数m, nに関して、 m < n, m = n, m > n のいずれか1つが必ず、そしてただ1つのみが成り立つ。
整数の和・積
2つの整数 m = (a, b), n = (c, d) の間の和・積を、
で定義します。 これらは自然数の和・積の自然な拡張であり、結合法則・交換法則・分配法則などが成り立ちます。
代数系としての整数
整数は、和に関して可換「群」、 積に関して可換「半群」になります。 また、和と積の間に分配法則が成り立つので、整数は「環」となります。 環であることを明示的に表すために、整数を整数環と呼ぶこともあります。
余談
ときどき、 ( − 1 ) × ( − 1 ) はなぜ 1 になるのかという疑問の声を耳にしますが、 これも上の定義を使うと自明になります。 − 1 = ( 0, 1 ) なので、 ( − 1 ) × ( − 1 ) = ( 0, 1 ) × ( 0, 1 ) = ( 0×0+1×1, 0×1+0×1 ) = ( 1, 0 ) = 1