Design Notes が3件ほど。
そのうち2件は7/10, 17のもので、C# 8.0 の最後の詰めっぽい感じ。
残りは、7/22 のもので、C# 9.0 に向けて「今度こそ」という感じで Records の話。
7/10
議題は3点。
- Empty switch statement
[DoesNotReturn]
params!
Empty switch statement
元々、switch式を式ステートメント(式1個だけ + ;
でステートメントを作るやつ)で使えるようにしたいという話があります。
セットで、戻り値が void
な式を switch
式使えるようにしたいという話もあり。
static void M(bool flag)
{
static void a() { }
static void b() { }
// switch 式内で void なものを書けるようしたいという話あり。
// (今 (少なくとも VS 16.3 Preview 1)は認められていない。)
flag switch
{
true => a(),
false => b(),
};
}
(ちなみに、これの実装はまだなく、関連 issueを今見るとCompiler.Nextという謎のマイルストーンが付けられてた… C# 8.0 を目指してたけどスケジュール的に無理で次に回ったやつですね、たぶん。)
で、7/10 の議題的には、以下のような「空 switch 式」を認めるかどうか。
// 式ステートメントに出来る前提では、空 switch を禁止する十分な理由が見当たらない。
flag switch { };
意味のあるコードではないですけども、 まあ、わざわざ禁止する十分な理由が見当たらないとのこと。
DoesNotReturn
[DoesNotReturn]
属性は、null 許容参照型に関連する属性です。
以下のメソッドのように、そのメソッドを呼んだ時点でそこから後ろは絶対に呼ばれないということを表すもの。
// 例外を出すんで、このメソッドからは絶対に正常に戻ってこない。
[DoesNotReturn]
static void Throw() => throw new Exception();
// 永久ループしてるんで、このメソッドからも戻ってこない。
[DoesNotReturn]
static void InfiniteLoop() { while (true) ; }
static void M(int i)
{
string? s = null;
// 絶対に戻ってこない or 非 null な値の代入ありのどちらか。
if (i == 1) Throw();
else if(i == 2) InfiniteLoop();
else { s = "abc"; }
// ここに来た時点で絶対に s = "abc" を通ってるので、s は非 null。
// 警告は出さなくていいはず。
Console.WriteLine(s.Length);
}
null 許容参照型のために導入される属性ですが、 原理的には確実な初期化ルールに対しても使えるはずです。 7/10 の議題はこの点についてで、とりあえずこの属性は null チェックにしか使わないという決断。
汎用な reachability (到達可能かどうか。到達可能なら null チェック、確実な初期化チェックが必要)判定は将来改めて考える。 その際にはおそらく別の仕組みを使うとのこと。
param!
引数の後ろに !
を書くことで、その引数の実行時 null チェックを自動挿入したいという提案があります。
ちなみに、null 許容参照型はコンパイル時の静的なフロー解析で、実行時には何もしません。
静的にチェックしても、null 許容参照型導入前の古いコードや、#nullable disable
なコンテキストで書いたコード、unsafe なコードから実行時に null が紛れ込むことがあります。
なので、実行時 null チェックの挿入にも需要が残っています。
機能自体はぜひ採用したいものの、詳細を詰め切れていない(いくつか問題がある)ので C# 8.0 には入れないとのこと。
例えば現状の文法案(引数の後ろに !
) は、「式の後ろの !
」と期待するものが真逆になるのでまずいです。これに対して、適切な文法を考えている余裕はもう C# 8.0 のスケジュールにはありません。
static void M(string param!)
{
// (C# 8.0 に入れないことが決まった。)
// param! と書くと、以下のコードがコンパイラーによって挿入される
// if (param is null) throw new ArgumentNullException(nameof(param));
// つまり、暗に、本来非 null なところに null が来うることを期待してる。
}
static void N(string? nullable)
{
// (これは C# 8.0 に入る。)
// null が来てても完全に無視。
// null forgiven (null の罪に目をつむる) 演算子って言ったりする。
string notnull = nullable!;
// つまり、暗に、本来 null 許容なところに null が来ないことを期待してる。
}
7/17
こっちの議題は2つ。と言っても片方は triage (細々と3つ、機能を入れるかどうか検討)。
- Nullability of events
-
Triage
- Support XML doc comments on local functions
- Warn on obsoleting overrides of non-obsolete members
- Proposals for ConfigureAwait with context
Nullability of events
C# のイベント、特に自動イベントは2つの側面を持ちます。
- 外から見て
+=
/-=
できる (add/remove アクセサー) - 中から見てデリゲート呼び出しができる(同名のフィールドとして参照できる)
これに対して null チェックをどうするかという話。 例えば、以下のようなチェックの仕方をしてほしいという要求は十分にあります。
- 外から見て、
+=
/-=
に null を渡すとかは許容したくない。外から見ると非 null であってほしい -
中からの呼び出しに関しては、null が来ることを前提としたコードを書くことが一般的
- イベント
E
に対してE?.Invoke(this, args)
とか (null 許容な前提だから?.
を書く)
- イベント
ということで、自動イベントに対するフロー解析で、アクセサーとフィールドを別扱いするべきかどうかというのが議題に。
結論的には、要求があることはわかるものの、イベントだけを特別扱いするのも混乱のもとなので、変なことはしないとのこと。
Triage 3件
-
ローカル関数に XML ドキュメント コメントを付けたい
- 需要はわかるし、やりたい
- でも、それを言ったらローカル関数だけじゃなくてローカルなもの全般(変数含む)にもドキュメント コメントの需要あって、合わせて考えたい
-
Obsoleteでないメンバーを、Obsolete 付きでオーバーライドしたときに警告を出すかどうか
- あると便利
- でも、やるなら warning waves (既存コードを壊すような警告を足せるように、オプション指定で警告度合いを増やす)を入れる段階でやる
-
ConfigureAwait 問題
- 再三にわたって「何もつけなくても
ConfigureAwait(false)
になるような機能が欲しい」と言われる。いい加減検討が必要 - 次のメジャーリリースに向けて考える
- 再三にわたって「何もつけなくても
7/22 (record V2)
records おさらい
records は、要は純粋なデータを表すような型のこと。 現状の C# で書くと、コンストラクター引数をプロパティでほぼ同じものを何度も繰り返し書かないといけなくてしんどいやつです。
class Records
{
// public なプロパティでデータをまとめたいというのがこの手の型(レコード)の主目的。
public int X { get; }
public int Y { get; }
// 目的外のところで、存外書かないといけないコードが多い。
public Records(int x, int y) => (X, Y) = (x, y);
public void Deconstruct(out int x, out int y) => (x, y) = (X, Y);
public bool Equals(Records other) => (X, Y) == (other.X, other.Y);
// その他、GetHashCode, == と !=, Equals(object) 等々…
}
うちのブログでも何度も何度も出ている話なのでずっと読んでくれている方ならわかると思いますが、初出は C# 6.0 の頃で、7 でも 8 でも流れて、9.0 で今度こそこれを主役にしたいという雰囲気。
records V1
最初に提案された records (今回、records V1 とか positional records とか呼ばれるようになっています)は概ね、以下のような書き方から、上記のようなクラスを生成する機能です。
data class Records(int X, int Y);
クラスの生成は、前述のような immutable (プロパティが get-only で、コンストラクターでの初期化が必須)なものになる(少なくともデフォルトではそうなる。get/set できるようにしたければ明示が必要にする)予定です。
こういう書き方自体はなくなったわけじゃなくて、これはこれで C# 9.0 のスコープに入っているんですが、問題もあって「V2」という別の書き方が提案されました。
問題は、V1 だとプロパティ初期化子が使えないこと。
class Records
{
public int X { get; }
public int Y { get; }
public Records(int x, int y) => (X, Y) = (x, y);
// 以下略
}
public class Program
{
static void Main()
{
// こうは書ける。
var r1 = new Records(1, 2);
// こう書きたいけど、これが V1 だと無理。
var r2 = new Records { X = 1, Y = 2 };
// こんな感じで「部分書き換え」もしたい。
// X は r2.X を引き継ぎつつ、Y だけ書き換えた新しいインスタンスを作りたい。
var r3 = r2 with { Y = 3};
}
}
records V2
そこで今回提案されているのが records V2 (nominal records) で、 以下のように、「initonly」なプロパティを定義できるようにするのはどうかというものです。
class Records
{
public initonly int X { get; }
public initonly int Y { get; }
}
public class Program
{
static void Main()
{
// こう書けるようにする。
var r2 = new Records { X = 1, Y = 2 };
var r3 = r2 with { Y = 3};
}
}
仕組み的には、以下のように、「readonly
が付いてるんだけどコンストラクター以外から書き換えられる set メソッドを用意」を考えているそうです。
class Records
{
// public initonly int X { get; } に対して
// コンパイラーは <Backing>_X みたいな C# では書けない名前でフィールドを生成してる。
// ここでは、説明のために単に _X で書く。
private int _X;
// get アクセサーに相当するメソッド
public int get_X() => _X;
// set アクセサーに相当するメソッド
[initonly]
public void set_X(int x) => _X = x;
}
[initonly]
属性のところは、単なる(C# コンパイラーだけが使う)属性じゃなくて、
.NET ランタイムが解釈して特別扱いできる属性値(modreq)にしたいそうです。
現状の .NET の仕様では、こういう readonly
なものの強制書き換えは unverifiable(安全性を検証できなくなる) だけど、unsafe ではないとのこと。
verifiable にするためにも、[initonly]
が付いたメソッドには「コンストラクターの直後以外で呼べない」などの制限を掛けるという方針。
with
(部分書き換え)については WithConstructor
という特別なメソッドを用意して、それに対してコンストラクター同様の制限を掛ける方式を検討中とのこと。
現状の records 要約
3つに分けて考えるとよさそうです。
- primary コンストラクター (positional records)
- initonly プロパティ (nominal records)
- data class/data struct
1つ目の primary コンストラクターは、以下のような書き方で、 コンストラクター(の引数)とプロパティを同時に定義する書き方。
class Records(int X);
// ↓解釈結果
class Records
{
public int X { get; }
public Records(int X) => this.X = X;
}
2つ目が今日話した initonly プロパティ。 immutable なデータ構造に対してプロパティ初期化子が使えるようにするもの。
class Records
{
public initonly int X { get; }
}
// ↓解釈結果
class Records
{
private int _X;
public int get_X() => _X;
[InitOnly]
public void set_X(int x) => _X = x;
}
3つ目は、data class
/data struct
と書くことで、プロパティから Equals
やGetHashCode
、Deconstruct
などの関連メソッドを自動生成する機能。
要は、これまでの提案と比べると、primarily コンストラクター が別機能として独立したことになります。
(キーワードは仮。data
じゃなくて record
キーワードになったりはするかも。)
// data が付く。
data class Records
{
// 中身自体は既存の C# コード。
public int X { get; set; }
public int Y { get; set; }
}
// ↓解釈結果
class Records : IEquatable<Records>
{
public int X { get; set; }
public int Y { get; set; }
public void Deconstruct(out int x, out int y) => (x, y) = (X, Y);
public bool Equals(Records other) => (X, Y) == (other.X, other.Y);
// その他、GetHashCode, == と !=, Equals(object) 等々…
}
primary コンストラクター を独立させたのと、今回 initonly プロパティを足したわけですが、 要するに、これらの混在もできる予定です。
// primary コンストラクターと、
data class Records(int X)
{
// initonly プロパティと、
public initonly int Y { get; }
// 既存の普通のプロパティが混在。
public int Z { get; set; }
// data が付いてるので Equals とかがコンパイラー生成される。
// (X, Y, Z から生成。)
}